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大倉源次郎さん(能楽囃子方大倉流小鼓方十六世宗家)第3回「世阿弥から課せられた使命」

能のルーツは、奈良時代、大陸から渡ってきた「散楽」だといわれている。

散楽は後に猿楽になり、能が発展していく母胎となった。
室町時代にはさまざまな寺社をパトロンとして、多くの座が成立した。
中でも興福寺を基盤とする大和猿楽の中からは観阿弥・世阿弥の親子が登場し、将軍足利義満の後援を得て京都にも進出。
能の基礎をつくりあげた。

長い間後継者に恵まれなかった世阿弥は、自分の芸を伝承するため、『風姿花伝』の執筆を開始したといわれている。
彼の哲学を受け継ぐ大倉さんは、「掛け値無しにいいものをつくり続けるという使命が、世阿弥から課せられている」と話す。
伝統を受け継ぎ、次に伝える宗家としてどういうところに課題を感じているのか聞いた。

小鼓は「奇跡の打楽器」

早川:今日は無理を申し上げて小鼓を持ってきていただきました。
見せていただくことは可能でしょうか?

大倉:ええ、もちろん。
よく間違われるんですけど、「こづつみ」ではなく、「こつづみ」です。
「こづつみ」と言うと荷物になりますから。
子どものころは、よく「小包の演奏家」と紹介されたものです。
「もう少し印象づけて、みなさんに知っていただく方法ないか」と考えて、鼓を袱紗(ふくさ)に包んで行くようにしました。
「今、ここにあるのは小包です。袱紗を開けると、小鼓が出てきました」と言ってお見せすると、この違いが理解していただけます。

早川:わかりやすいですね。

大倉:今日持ってきたものは、胴を桜の木でくりぬいたものです。
安土桃山以前の、相当古い時代に奈良でつくられたと言われています。
ちょっと奮発して持って参りました。

早川:ありがとございます。
きっと、ストラディバリウス並みに大変高価なものだと思います。

大倉:金額では少し負けていると思います(笑)。
革は馬革で、だいたい100年近く経っているものです。

早川:その革は替えていくんですか?

大倉:革は大事に使えば200~300年持ちます。
破れたら基本的におしまいです。
革には鉄の輪が入っています。
鋼の鋳造技術が日本に入ってきたのは、おそらく6、7世紀ごろと言われています。
この技術が非常に重要なんです。
これが無い地域は、木の胴に革を直張りした太鼓しかありません。
アフリカやインドネシアではそういう太鼓が主流ですね。
日本に鋳造技術が入ったおかげで、輪鉄入りの鼓ができました。
これは麻の調緒といって、手元で調節しながら音が調節できます。

早川:そういう文化と技術が紐付いているわけですね。

大倉:そうです。
アフリカで世界中の人種の原点が生まれて、人類が初めて手にした楽器は打楽器だといわれています。
最初は赤ちゃんが棒でカンカン音を出して楽しんでいるような感じだったのでしょう。
それがより大きな音、よりきれいな音、よりおもしろい音を追求していくうちに、こういう鼓に発達していくわけです。
この形にいたるまで、何万年という年月がかかりました。
日本には馬がいて、桜の木があって、漆があって、麻が取れます。
あらゆる条件がそろった上で、小鼓が成り立つわけですから、「奇跡の打楽器」と呼ばせていただいてもいんじゃないかと思います。

早川:本当にそうですよね。
この小鼓の数え方の単位は何ですか?

大倉:一挺、二挺です。

早川:それを何挺お持ちなんですか。

大倉:数でいうと五十から六十挺あるかもしれません。
実際、舞台で使うのはほんの数調です。
四季折々、気候に合った鼓を組み合わせて舞台へ持っていきます。

早川:名前はありますか?

大倉:銘をつけるという遊びの文化は、あまりありません。
私の場合は、「春」「冬」「乾燥期」「梅雨時」というふうに、季節や、湿気の有無で使い分けています。
鼓の一番の特徴は、左手で張り加減を調整すると、トーンの差が生まれることです。
その中でも一番よく鳴るところがあります。
筒抜けの音というのは、ポンポンポンとただ鳴っているだけ。
調緒を左手で強く握ると、ポンポンポンっとしゃくる強みが出ますよね。
見た目はほとんど同じでも、手元一つで音の響き方を変えることができるんです。
これが鼓のおもしろいところですね。
あと、手元で音の調子も変わります。
甲高い「甲」の音と、柔らかい「乙」の音の2種類があるのです。
それぞれ小さな音と大きな音があるので、4種類のチッタップッポッという音を使い分けています。
甲の小さな音がチッ。
甲の大きな音がタッ。
乙の小さな音はプッ。
乙の大きな音がポッ。
厳密にいうと甲の乙と、乙のという超特殊な音がありますが、もうほとんど使いません。
この6種類の音を使い分けています。

早川:ありがとうございます。
お手入れの方法もいろいろあるんですよね。

大倉:革ですので、汗や湿気がついたままただとカビが生えてしまいます。
そういうところはすごく気をつけています。
それと虫ですよね。
防虫剤はもう納戸に大量に置いて、悪い虫がつかないように面倒を見ています。

早川:麻の調べは、1年以上持ちますか?

大倉:ハードに使うとどんどん痛んできますから、長くは持ちません。
だいたい年末に替えて、慣らしながら、お正月にベストの状態になるように調整しています。
新しいのに替えて、すぐその日から演奏に使うのも怖いですから。

早川:麻の調べの色には何か意味があるのでしょうか?

大倉:いや。とくにありません。
昔は紫綬褒章というように、紫色の調べを、年功を経た人にご褒美のように賜っていたそうです。
江戸時代は、それを舞台で使わせていただくのがすごいステータスでした。
今はみんな紅花で染めた朱色の調べを使っています。

早川:重さは、1キロぐらいでしょうか?

大倉:もう少しあります。持ってみますか?

早川:貴重なものなので緊張しますね。

大倉:ピアノやギターを目にする機会は多いでしょうけど、こうやって小鼓を見る機会ってなかなかありませんでしょう。
もっと日本人の生活の中に、ごく当たり前にあってほしいなって思います。
1つ、クイズを出しましょう。
「鼓の構え方」をしてみてください。

早川:左手で鼓を持って右手で打つんですよね?


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