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大倉源次郎さん(能楽囃子方大倉流小鼓方十六世宗家)第1回「翁の面が意味するもの」

今回のUpdaterは、2017年に人間国宝に認定された能楽囃子方大倉流小鼓方の大倉源次郎さん。
先代大倉長十郎さんの次男として大阪に生まれ、幼少期から稽古を重ねた。
28歳のときに長十郎さんがなくなり、能楽小鼓方大倉流十六世宗家を継承する。
亡父が家訓のように口にした「能楽界の縁の下の力持ちとしてがんばりなさい」という言葉を胸に、後進の育成や、初心者向けの普及活動に尽力している。
そんな大倉さんに、能という伝統芸能の成り立ちや見どころをうかがった。

初心者にもやさしい国立能楽堂の設備

早川:実は先ほど、インド・ネパール料理店で、期せずしてご一緒させていただきました。
初対面でこういうことを言うのは失礼かもしれませんが、とてもお話される方でおどろきました(笑)

大倉:いえいえ。
私は代々囃子方ですから、鼓しか打てません(笑) 

早川:収録前に「昔は無口だった」というお話もありましたが。
いつごろから変わられたのでしょうか?

大倉:中学、高校ぐらいのときに、「テレパシーがあるわけではないから、自分の意思をちゃんと言わないと、伝わらない」と気がついたのです。
当時いろいろなシールを貼るのがはやっていたので、「性格改善」というシールを貼りました。

早川:どこに貼ったのですか?

大倉:鼓のかばんに貼りました。
それを見て、自分の考えが相手にちゃんと伝わるように、言語化を意識した時期があります。
そういう努力のたまもので、後天的な結果なんですよ。

早川:そうでしたか。
今日はお話をうかがうのを楽しみにしていました。
実は、能は数えるほどしか見たことがないのですが……。

大倉:数えるだけでも見ていただけたら、ありがたいです。

早川:学生のころに観た記憶はありますが、以来なかなか足を運ぶ機会がなくて。
大倉さんとご縁をいただく5~6カ月前に、知人から「能がおもしろいから観に行かないか」と誘われて、初めて行ったのが国立能楽堂でした。
勉強不足で恐縮ですが、「国立とつくからには、ものすごく大きい劇場だろう」と思っていたんです。
後から聞いたのですが、舞台自体の大きさはある程度決まっているんですね。

大倉:規格のサイズでつくっていますから。

早川:恥ずかしい限りです。
他の客席の方々も知識があるように見えたので、最初は「理解できるだろうか」と不安もあったのです。
前説の方がすごく興味深い話をしてくれて、観劇中にはモニターに解説文が出てきたのがとても親切に感じました。

大倉:国立能楽堂はその設備があります。
スタッフがミラノのスカラ座に視察に行って、「これはいい」ということで取り入れたんです。

早川:そうなんですか。

大倉:ええ。
ヨーロッパのオペラも、能と同じ問題を抱えています。
セリフが昔の言葉でわかりにくいですし、イタリアオペラならイタリア語、ドイツオペラならドイツ語で演じるので、多言語に対応できません。
そこでモニターがつけられたのです。
国立能楽堂でも、日本語はもちろん、英語や他の外国語にも訳せるようになっています。

早川:解説があるので、初心者が観てもわかりやすかったです。

大倉:観劇のきっかけになるような、補助的な設備はある程度必要だと思います。
そこからいかにチャンネルを開いていくかは、子どもの頃からの訓練なんです。

早川:訓練?

大倉:ええ。
ヨーロッパへ行きますと、木曜日は美術館が無料なので、先生が毎週のように子どもたちを連れてきてレクチャーしたり、写生をさせたりしています。
そうすると、子どもたちは自然と芸術と語り合う時間が持てるわけです。
例えば、最初のうちは正面から描いていた像でも、角度を変えると、今までと違った姿が見えてきます。
日本の教育現場というのは、どうしても「お手本どおりに描きましょう」となりがち。
芸術と語らう時間を持ち、自分の中で熟成させるということなく、模倣するだけになってしまいます。

早川:確かにそうですね。

大倉:かくいう私も、先人のお手本を前に一生懸命稽古しましたが、最初のうちは「なぞっているだけ」でした。
逆にいうと、「どんなになぞろうと思っても、なぞれない自分」が出てきたときに、初めてオリジナリティが生まれます。
芝居やオペラを観て「一体どうなっているんだろう」「これは自分になかったものだ」という気づきを得ると、今まで動いていなかった部分にスイッチが入ります。
これが大事なんです。
劇的体験やアートに出会ったときの感激が、自分の芸と結びついて、深みにはまっていくのではないでしょうか。

翁の面にたくされた和の心

早川:能には古典と新作があります。
能自体にいろいろなルールや制約がある中で、どうやってオリジナリティを出しているのでしょうか?


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