エリオットゆかりさん(料理研究家/イギリス)第2回「『好き』を生きるために もっとも大切なこと」
英国在住およそ20年。立ち上げたケータリングサービスが評判を呼び、英国と日本を股にかけた料理研究家として八面六臂の活躍を見せるのが今回のUpdater、エリオットゆかりさん(料理研究家)。
英国の家庭料理を日本流にアレンジして驚くほどおいしくしあげてくれた。そのレシピは英国の家庭で話題を集めると、日本にも「逆輸入」。いつしか来日頻度も増えていき、いまでは企業とのコラボイベントやラジオ、テレビにも出演する日々となった。
そんな彼女にお目にかかる前の印象は「なんと華やかで素敵な女性!」。
実際お目にかかってその印象が裏切られることはなかったが、いちばん驚いたのは取材冒頭で彼女が「自分はまず主婦であり母親」と言い切ったこと。そして様々な苦労を乗り越え、地味に地道に「大和撫子」ライクに生きてきたこと。実際ご自宅にうかがったときもご主人やお子さんのために、家のことを一生懸命していた姿が印象的だった。
渡英当初は環境に適応できず、うつ気味になったこともあるというゆかりさん。そんな彼女がいかにライフワークに出会い、英日を舞台に活躍し続けるにいたったのか。妻・母・ライフワーク。3つを幸せに生きるための気づきが詰まった宝石箱のようなインタビューとなった。今回は後編をお届けする(2016年3月イギリスで対談)。
毎日食べるものだから「ゆるく、おいしく」がモットー
早川 もちろん季節にもよるとは思いますが、イギリスの食材で「これがとてもおいしい」とか「これが有名」というものはありますか?
ゆかり イギリスって、日本人は「わっ」と思ってしまうかもしれませんが、わりと内蔵系を食べるんです。腎臓とか、レバーとかですね。
早川 僕もわっと思ってしまいます。
ゆかり そうですよね。例えばそれを蒸してしまったりすると、香りがこもってしまったりするので、日本人はたぶん苦手だろうなと思います。そういうものが結構多いですね。ほかには、ジェリードイルというものがあって、これはうなぎのジェリー寄せなんです。普通に魚屋さんなどでも買えます。おいしいところのものはおいしいのかもしれないんですが、だいたい泥臭いんです。そういうちょっと変わったものが多いですね。だけど、パーセニックという、白い人参のような形をしたものがあるんですが、加熱するととても甘みが増して、ローストなどによく添えられています。そういうおいしいものももちろんあります。
早川 オーガニックの食材やオーガニックのものが入るという意味では、僕はいつもイギリスに来るのを楽しみにしているんです。東京といえども、本当の意味での基準に達しているところは、オーガニックをうたっているところでも少ないと思います。イギリスはその辺がとても進んでいると思うんですが、実際はどうですか?
ゆかり オーガニックの野菜の宅配なども流行っていますし、たぶん、関心はとても高いと思います。共働きの方も多いのでニーズにも合っていますし、値段もそこまで高くないんです。だから、一般人でも意識の高い人は、「買ってみようかしら」という気になるし、ましてや二人暮らしだったりすると、割と手軽に試せると思います。ただ私の場合は、そこまでこだわっていないので、イギリスのオーガニック事情に関してはあまり詳しくありません。
早川 ポジティブな意味でお聞きしたいのですが、「そんなに私はこだわってない」というのは、何か逆にこだわりがあるのかなと思ったんですが。
ゆかり いいえ。おいしく食べられればいいのではないのかと思います。結局、売っているものは基準に達していると思いますから、そこまで私はこだわっていません。値段を見て、あまり変わらなければ買ってみようかとは思いますが、それしか買わないということではありません。
早川 これは僕が受けた印象ですが、あまり肩肘をはって「こうじゃないといけない」とか、「こういう条件で作らないといけない」というようなことを、きっちりと決めて仕事をされているわけではないですよね。逆にそれをやると、ゆかりさん自身が苦しくなってしまうのかなと思いました。
ゆかり そうですね。一生のうちのほとんどは作ったり食べたりする時間ですから、きっちりよりは、ゆるく、おいしく。でも、もちろん、心配なものは、とことんチェックした方がいいと思います。
早川 でも、普通に卵のほとんどがフリーレンジですよね。実際に来るとやはり日本より基準が厳しいのかなとは思いますね。
ゆかり そうですね。
早川 今、食ということでお話を伺いましたが、イギリスというと、階級社会が今も残っているということを聞きます。その辺で、ケータリングをされているときなどに、何か感じたことはありますか?
ゆかり ケータリングを頼んで下さる方は、やはり、余裕のある方しかいないので、私もそんなにいろんな方に接する機会は正直なかったと思います。でも、私は日本人ですから、階級のどこにも属していません。ある意味、どちらにも関われる一番いいポジションなんですが、一般的には労働者階級の方が上の階級に憧れることもなければ、交わることもありません。そういう意味で、くっきり分かれているのは感じます。
早川 それはもう、いい悪いとかではないということですね。
ゆかり そうですね。
早川 それが自然といえば自然なんですか?
ゆかり そうですね。育った環境も、外国のように全く違うと思うので。
パリより高い? イギリスの物価
早川 あとはやはり、物価が高いですね。それに、数年前に来たときよりも高くなっています。そのときより円安になっているということもあると思うんですが、円安を抜いても、国内の物価は高くなっていますか?
ゆかり 高いと思います。他のヨーロッパの方が来ても、「高いね」とみんな言います。
早川 パリより高く感じるし、去年行ったチューリッヒよりも、下手するとこちらのほうが高いという印象を受けます。そうはいっても、スーパーに行ったときなどに「こういうものは、日本よりも安いよ」というものはありますか?
ゆかり とても身近なものになってしまいますが、セロリなどは、1袋にもう食べきれないほど入っているんです。葉の部分がなくて、軸の部分なんですが、それが7、8本入っています。それでたぶん、100円ぐらいの時があって、私はそれを消費したいものだから、「セロリ3本使用」というようなレシピを考えるんです。でも、日本人の方には、「とても高級な料理になってしまいますよ」と言われます。日本だと、そこまで安くはありませんから。
早川 むしろ、ゆかりさん的には、100円も使っていないということですね。
ゆかり そうなんです。でも、とにかく何にしても、数が入っています。
早川 量が違いますよね。
ゆかり そうです。野菜などを見ていると、イギリスはそんなに高く感じません。
早川 確かに。逆に何が日本に比べて高いですか?
ゆかり トイレットペーパーなどの紙類は高いです。それから、歯ブラシがとても高いなと思います。
早川 日本の何倍も高かったりしますよね。原価としてはどうなんだろうという感じです。
ゆかり そうです。日本ではトイレットペーパーはわりと手ごろな値段だったのに、こちらに来たら、800円くらいしたのでびっくりしました。
早川 使わないというわけにはいきませんからね。
ゆかり でも、イギリスには、「1ポンドショップ」みたいなものがあります。日本で言う100円均一みたいな感じですね。小物もあるし、最近はそういうところも覗いています。ただ、日本の100均は、クオリティーも高いし、種類も豊富ですが、こっちは「えーっ」と思うものも多いんですよ。以前に比べたら少しずつは良くなっているかもしれませんが、でも「まだまだだな」と感じます。
イギリスの教育は「褒め伸ばし」が基本
早川 せっかくですから、イギリスでの子育てや教育などの面も聞いてみたいと思いますが、母の視点から見てどういう感じですか?