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石田衣良さん(小説家)第1回「そもそもセンスとは何か?」

今回のUpdaterは、1997年に『池袋ウエストゲートパーク』でデビューして以来、第一線を走り続けている石田衣良さん。「1億総ライター、総クリエイター時代」と言われる現代、誰もが自由に発信できるようになったが、その対価で生計を立てられる人は、ほんの一握り。そんな世の中で、石田さんは、センスの良さと、お金を稼ぐことをトップレベルで両立させている稀有な存在だ。数々のベストセラーを生み出してきた彼の考える「魅力的な文章」や「センス」とは?(2019年1月インタビュー)

センスよく稼ぐには?

早川:一緒にお仕事させていただいてもう4年ですね。
今回のテーマは、「センスと『売れる』を両立させる文章術」です。
質問のバックグラウンドとして、ぼく自身も書き手の端くれですし、起業家として何か自分の商品、サービスについて書く機会がすごく多いんです。
自分の世界観やセンスを優先すると、多くの人に受け入れられなかったり、売れなかったりします。
反対に思いきり世の中に迎合した文章を書くと、センスがイマイチになってしまいます。
自分も含めて、そこを両立させている人ってなかなかいないような気がするんです。

衣良:ペンネームがいくつもあれば書き分ければいいんだろうけど、実際にはなかなか難しいよね。
結局、センスの部分に関しては、「こういうテーマや文章のトーンを、何人かは受け入れてくれるんじゃないか」と考えながら、手探りで書いていくしかありません。
仮に10万部本が売れたとするじゃないですか。
今の出版界だと大変な数字ですけど、東京都の人口はいま1250万人です。
10万部売れても、東京の小学校3、4つのうち、児童が一人読むくらいのイメージなんですよ。

早川:そう考えると、少ないような気がしますね。

衣良:でも、それで十分なんです。
自分で「本が売れるかどうか」を考えても仕方ありません
「なるべくキャッチーで分かりやすくしたい」っていう人もいれば、「いや自分はこだわりがあるし、こういうセンスでやるんだ」っていう人もいます。
自分のやりたいように書けば、それに応じたファンがついていきます。
ぼくが『池袋ウエストゲートパーク』の1作目を書いた時は、文体もとがっていたし、扱っているのも、日本には本来ない世界です。
参考にしたのはロサンゼルスやメキシコの少年マフィアなので、その世界観に誰かがついてくるとは考えていませんでした。
「受けなくても別にいいや。自分が楽しいように書いて、読みたい人が読めばいいじゃない」という感じで始まっているんです。

早川:そうでしたか。
今回このテーマを聞きたかったのは、衣良さんは、「センス」と「売れること」を両立させていて、その一番高みにいるからなんです。
読者にはプロの人もいれば、まだこれからっていう人もいると思うんですけど。
「今はネットの時代だから、誰でも発信できる」と言われていますが、その中でちゃんと生計を立てられる人は、周りを見ても一握りです。
今日は何かを書いている人に、いろんなヒントをいただけたらと思っています。

衣良:一つ言えるのは、自分が読んでほしい人と、実際の読者層は必ずしも一致しないということですね。

早川:それもまさに聞きたかったところですけど、衣良さんはどうですか?

衣良:ぼくは一致しているほうかな。
本好きな人が読んでくれるので。
恋愛小説には女性ファンがいて、池袋のようなサスペンスものは若い男の子がファンになってくれます。
その両面が書けたっていうのは良かったと思いますね。

早川:書くジャンルの幅が、すごく広いことにも驚きます。

衣良:単純に、ぼく自身が同じものを書いていると飽きちゃうんです。
ベテラン作家の中には、「うまいなぁ、読ませるなぁ」という作品を書く人もいるんですけど、そんな本を100冊も200冊も書いてもしょうがないじゃんという気もするので。

早川:よく衣良さんのトークライブイベントに登壇させていただきますが、基本的に「やばそうだな」と感じるファンの方はいらっしゃらないですね(笑)。

衣良:なぜかぼくのファンは割とセンスのいい人が多いんです。
ぼくのやっているサロンでも、会員にショートショートを書いてもらったり、写真に俳句をつけてもらったりすると、みんなレベルが高いんですよ。
そういう点では「ファンには恵まれているんだなー」と感じます。
作家によっては、自分で「これはすばらしい! ハイセンスだ」と思って書いたのに、実際につくのは地方のおじさんおばさんみたいなパターンもあります。

早川:衣良さんは作家デビューされて22年目ですけど、読み手はどのくらい意識していますか?

衣良:あまり意識してないよ、考えてもわからないからね。
最近は70歳のおばあちゃんでもロボットアニメを見ているような人もいて、年齢や性別、住む地域で簡単に切れなくなっています。
なので、自分なりのセンスや、物語の世界に合う人をピンポイントで拾っていくしかないと思います。

センスとはその人の「セレクトの集合体」

早川:まさに大きなテーマで、一番難しいところだと思うんですけど、センスってそもそもなんでしょう? 
衣良さんの定義は何ですか?

衣良:センスって、その人がセレクトしてきた、ありとあらゆるものの集合体なんですよね。
着るもの、食べるもの、言葉の使い方、小説やエッセイのテーマ。
あるいは文章の中に自分をどの程度出すのか、出さないのか。
そういったものの集積がセンスです。
だから普段の生活の中で、自分なりに気をつけて、感覚を磨いておくしかない気がします。

早川:ある人にとっては「すごくセンスがいい」と感じるけど、別の人にはセンスが悪く見えることもありますか?

衣良:ありますね。
例えば海外の高級ブランドって、かなり攻めたデザインじゃないですか。
大きな蜂がいっぱいついているような、難易度の高い服が置いてあるでしょう。

早川:モデルしか着られないような服ですね。

衣良:そういうファッションでも、うまくやれば、ちゃんとファンはつくので。
「センスが良い」と「センスが悪い」のギリギリを責めるぐらいの心意気は欲しいですね。
日本って、どうしてもある種の道徳観が強いじゃないですか。
コツコツ働いて、家族を大事にするとか。
「お上の言うことには逆らわず、会社の中で気になることがあっても意見は言わず、ひたすらコツコツ働いて生きていく」っていうような。
ああいうのもセンスだし、それなりにファンはつきます。

早川:センスは自分で積み重ねるものだから、作るという表現はちょっと違うんですね。

衣良:センスっていう言葉に一番近いのは、「空気感」じゃないですか。
立ち振る舞いとか、何かを喋ったりする時に、その人だけにしか出せない空気感がふんわり出てくる。
それが研ぎ澄まされたものだったり、穏やかなものだったり、いろいろあると思うんですけど。
その人なりのものが自然と出てくるのが理想ですね。

ジャンルごとに向き不向きはあるのか?

早川:衣良さんは、小説はもちろん、エッセイも書かれますよね。
コピーライター、ジャーナリスト、小説家には、それぞれ向き不向きがありますか?

衣良:あると思います。
エッセイはうまいけど、小説はダメだっていう書き手もいるし、逆に小説は書けるけど、エッセイはも苦手っていう作家も結構います。

早川:衣良さんにとっては、小説が一番ですか?

衣良:小説が圧倒的ですね。
エッセイはどう始まって、どう終わってもいいんですけど、小説の場合は一つの世界を作って渡さないといけないので。
その世界の中で、「できる限りのことをやらないといけない」っていうプレッシャーがあります。
だから大変だよね。

早川:衣良さんにとって、エッセイってどういう感じなんですか。

衣良:小説は作中の人物の視点や声を使って書いているんですけど、エッセイは自分の色を出していきます。

早川:身も蓋もないかもしれないですけど。
今日のテーマでもある、「センスと経済の両立」って、誰にでもできる事じゃないですよね?

衣良:そうですね。
本当に下手くそで誰も読まない作品もあれば、センスがよくて知的レベルは高いんだけど、ハイブローすぎて誰もついてこられない本もたくさんあります。
音楽業界を見ればよくわかるじゃないですか。
技術的にはすごくとがったことをやっているけど、世界で100人しか聞き手がいない音楽もあるので。
自分なりにどういうポジションに行きたいのか、おぼろげにでも考えていたほうがいいですね。
それこそ「マツキヨみたいに、日本中にドラッグストアのチェーンを作るんだ」とか、「俺は小説界の王将でいい。280円で餃子を売るんだ」というのも、立派なことなので。
書き手としてどういうあり方を目指すのか。
もし「世界で100人だけわかる、すばらしくとがったものを書きたい」と思ったら、それを突き詰めればいいんです。

早川:衣良さん自身はどういう感覚なんですか?


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