髙田明さん(ジャパネットたかた創業者)第3回「市場は「創り出す」もの」
老若男女におなじみの「ジャパネットたかた」。その原点は、創業者の髙田明さんの実家が営んでいた長崎・平戸の「カメラのたかた」である。25歳から家業を手伝っていた髙田さんは独自の工夫で売上げを何倍にも伸ばしていく。その後ラジオ、テレビと露出の機会を増やし、販路を拡大。誰もが知る企業をつくりあげていった。不況が続く世の中で、ものやサービスをどのように売っていけばいいのだろうか? 髙田さんに教えてもらった(2019年6月ジャパネットたかた本社にて対談。写真/山﨑 慎太郎)。
ものを売るときに大切なこと
早川:髙田さんと言えば「伝える力」がまず思い浮かびます。
何かを伝えたいとき、もう少しビジネスっぽく言うと「売りたい」と思ったときに、時代や場所、環境、商品に関係なく大切なことは何でしょうか?
髙田:「そもそも何のために売っているのか」ということですよね。
利益を出していかなければ社会貢献できないし、社員も養えません。
ものを売るということは、お金を出して買う人がいるわけでしょう。
その分健康を提案したり人生を豊かにしたりという対価を出さなければいけません。
ウォーキングシューズもずいぶん販売しました。
「こんな靴底で、ソールはこんなにかっこいいです。どこで作られて品質管理しています」と説明して売るのも一つの手段ですが、ぼくなら何のために靴を履くのかを突き詰めて考えます。
例えば「健康のためには歩くことが一番です。歩くツールとして最高のシューズを提案したいんです」というソフトの部分を語るのです。
だからソフト7割、ハード3割でもいいと思っています。
極端に言えば、ソフト9割、ハード1割でも売れるかもしれません。
「ハードを9割語らなければいけない」と思ったときに売れなくなります。
早川:最初からそういう視点があったのでしょうか?
髙田:ぼくは25歳でカメラの世界に入ってから、よく店頭に立っていました。
平戸の田舎の店なので、ときどきおじいちゃんが風呂敷包みを持ってやって来たりしました。
1、2分かけて風呂敷を開き、中からフィルムやカメラを取り出すのです。
ぼくはお客さんの相手をしながら、会話することが楽しみでした。
そのうち写真がもたらす価値について考えるようになったのです。
写真ってなんのためにあると思いますか?
早川:思い出やそのときの記憶、感情を残すためですか?
髙田:そうですね。今みんなスマートフォンで写真を撮るでしょう。
あれは完璧にダメです。
早川:完璧に、ですか?
髙田:撮ることに満足しているだけなので。
写真は目に触れることによって、自分の人生を想像しているんですよ。
本当はプリントするのがいいんです。
子どもの成長の記録はぜひ壁に貼ってください。
1歳、2歳、3歳という順に。
ぼくは10年分の子どもの写真を廊下の壁に貼っていました。
親はそれだけで子どもの成長を感じられるんですよね。
スマートフォンでは何も感じません。
今はプリンターが売れなくなってきていますが、ソフトを語らせたら、ジャパネットはプリンターの売上げ世界ナンバー1になると思います。
早川:ぼくも子どもがいるので、何千枚も写真を撮ってクラウドに上げていますが、全然見返しませんでした。
ちょうどこの1カ月くらいで写真をプリントして壁に貼り始めたら「やっぱりいいな」と感じていたところでした。
髙田:写真、最高ですよ。
本当はプリントする世界をつくっていかないとダメですが、世の中がそういう方向ではなくなってきていますね。
便利さや娯楽の価値観が違ってきているところは、少しさみしく感じます。
早川:そういう意味では、市場そのものを創ることも可能でしょうか?
ケースバイケースかもしれませんが、どうお考えですか?