宇野亞喜良さん(イラストレーター)第3回「アウトサイダーであり続ける」
1950年代から「鬼才」と言われ、80歳超えた現在も第一線で活躍し続けている宇野亞喜良さん。近年も化粧品ブランドのパッケージや、椎名林檎のCDジャケット、伊勢丹新宿店のビジュアルなどを手がけ、幅広い年代に支持されている。トレンドの移り変わりの激しいファッションや広告業界でたくさんの実績を残してきた宇野さん。彼が長年に渡りトップクリエイターの座をキープできた理由を探ると、アウトサイダー的に生きることへのこだわりが見えてきた(2018年8月対談)。
漢字から着想を得た2019年のカレンダー
早川:宇野さんはこの仕事を半世紀以上されています。
その中で、ご自身の満足度と商業的成功が合致した割合はどのくらいでしょうか?
宇野:評価額は頻繁に変わりますが、描いたものが印刷物になったり、メディアになったりすると、その時点で「こういう仕事をしたな」っていう満足感はあります。
この間、祖父江慎(そぶえしん)さんっていうグラフィックデザイナーと一緒にカレンダーをつくったんです。
ぼくが絵と文字をかき、祖父江さんがデザインしてくれました。
とくに、白い箔押しの部分が気に入っています。
普通は背景と同化してほとんど見ないのですが、かすかに網を敷いて明度を落とすことで、視線を誘導しているんです。
「何だろう」と触ってみると、箔押しだとわかる。
祖父江さんの計算がうまいなと思います。
そういうふうに、印刷の特性や美学を知っているからこそ、出せる要素があるんです。
文字もおもしろいフォントになっています。
早川:絵は何をモチーフにしたのですか?
宇野:ロシアの映画作家が「日本の字はモンタージュだ」と言っていました。
たとえば、「門」に「耳」をあてて、中で何が起きているかを「聞く」と書きますよね。
その漢字を絵にしました。
早川:この文章も宇野さんが書いたのですか?
宇野:ぼくが書いています。
「青嵐」という言葉の下に「青々とした山の様子」って書いてあるでしょう。
言葉の持つ意味を絵で表現しているんです。
女の子が書道をしている絵は、「習う」という漢字がモチーフです。
「習」を分解すると、「羽」と「白になります。
だから、白い羽の女の子が、飛ぶように軽い文字を書いているんです。
他にも、いろんな中国の書家の文字を入れているんだけど、絵描きはこういうモチーフをあまり使わないでしょう。
早川:そうですね。
宇野:「姿」っていうのは「次」の「女」と書きます。
「次の構図に移るときに、女はかっこよく変身する」という、勝手な解釈で絵を描いています。
だから、絵描きの仕事ではないですよね。
早川:文章を書くことは、宇野さんにとって絵と同じように大事なことですか?