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宇野亞喜良さん(イラストレーター)第1回「全ての創作はアナログで」

今回のUpdaterは、日本を代表するイラストレーターの宇野亞喜良(うのあきら)さん。繊細なタッチで描かれた笑わない少女の絵が有名である。80歳を超えた今も第一線で活躍し、自身のファッションブランドやコスメブランドで若い女性の心もキャッチしている。宇野さんは女性の琴線に触れるやわらかな感性を持っているようだ。彼のセンスはどのような環境で芽生え、磨かれてきたのだろうか? その生い立ちやアートにひかれた経緯をうかがった(2018年8月対談)。

絵本の生まれるプロセス

早川:今、手元に最近宇野さんが出された、『2ひきのねこ』という絵本があります。
わが家でももう大好評で。
きれいに持ってこようと思ったんですけど、ボロボロに使い込んでしまいました。

宇野:そのほうが見てもらっている感じはしますよ(笑)。

早川:この本では絵だけではなくて、ストーリーもつくられたのですか?

宇野:そうです。

早川:製作期間はどのくらいですか?

宇野:最初の依頼を受けてから、半年くらいかかったと思います。
その間にテキストのやりとりや、出版社との打ち合わせがありました。

早川:作品や媒体によるかもしれませんが、ふつう絵のほうを先に描くのでしょうか?

宇野:まずストーリーを書いて、それをどうビジュアライズするのか、出版社の社長と相談しました。
擬人化された猫が洋服を着て歩き、最後は2匹の猫と女主人がヨーロッパに行くという話なんですけど。
そういう非リアリズムに対してあまり抵抗がない社長なんです。

早川:どうして舞台をパリにしたんですか?

宇野:「日本からどう離れるか」を考えて、100年くらい前のパリという設定にしました。
主人公のいるカフェに、ピカソとジャン・コクトーがいるページもあります。
フランス語でコクトーとピカソの名前も入っているでしょう?
そういうことも平気で許してくれる出版社なんです。

早川:何度も作品を見ていながら、このピカソとコクトーには気づきませんでした。

宇野:わかってもらえなくてもいいんです。
非リアリズムの作品ですから。
世界中の古典で、猫が洋服来ていたり、カエルがお坊さんになったりする物語がありますよね。
人間は割と許容量があるので、動物が何に変身しても文句は言いません。
フィクションのつくり方で作家の才能の質がわかったり、「この人らしいな」って思う部分があったりします。

作品に内包される「女性性」はどこで生まれたのか

早川:宇野さんと言えば、少女の絵が印象的です。
源泉はどこから来ているのでしょう。

宇野:ぼくが小学校6年生のときに終戦を迎え、それから出版界が繁栄しました。
家が喫茶店だったので、文芸誌や週刊誌は一通りそろえていたんです。
子どものころから見る機会が多かったので、戦後の出版物からビジュアルの影響を受けています。

少年雑誌系の『少年倶楽部』や、光文社の『少年』を読んでいたのですが、妹は中原淳一さんがヒマワリ社から出版した『それいゆ』が好きでした。
ぼくもそれを見て、「少女を描くのもいいな」と思ったのです。
印刷も好きで、よく新聞小説の挿絵画家の本画(ほんが)を観に行きました。

早川:本画とは何ですか?

宇野:油絵など、作家が本当の気持ちで描いた絵です。
挿絵画家の展覧会に行くと、原画が並べられています。
ぼくにとっては、何気ない風景が描かれている油絵よりも、新聞小説の挿絵のほうが「おもしろい」と感じました。
それから印刷に置き換えた絵画に興味を持ち、グラフィックデザイナーやイラストレーターを志すようになったのです。

早川:先ほど中原淳一さんの名前が出て、少しフラッシュバックしたのが、髙田賢三さんのインタビューです。
彼もファッションに興味を持ったのは姉妹の影響で中原淳一さんの作品に触れたことが大きかったと。
そんなこともあり、ファッションやアートの世界で台頭する男性はある種の女性性を内包しているのではと感じたんです。
実際、賢三さんご自身のセクシュアリティについてお話されていましたしね。

宇野:ご自分でおっしゃっているんですか?

早川:はい。ざっくばらんに話していただけました。
宇野さんは奥さまもいらっしゃいますが、過去のインタビューで、「(ホモセクシュアルへの)ある種のあこがれはあった」と語っていた覚えがあります。

宇野:藤田嗣治という画家は、自分でシャツや小物をつくったり、ミシンをかけたりしていました。
腕時計の入れ墨もしていたので、評論家は「ひょっとしたらゲイじゃないか」と言っていたんです。
ぼくもファッション系が好きで、絵画としては必要がないのに、ジーンズにステッチを描き込んだりしています。
中原淳一さんの影響もあるのかもしれません。

ヘアスタイルや洋服も、構造がわかっていないと絵が描けないんです。
普通の絵描きであれば、フォルムがおもしろければ構造はどうなろうと気にしません。
ぼくは「このフレアは、ここにステッチがあるから、こういう形になる」というところに興味があります。
そういう意味では、ゲイ気質はあると思います。

早川:女性的な要素がないと、絵が描けないということでしょうか。

宇野:いや、ゴッホのような画家の絵は、女性性がなくても描けます。
ピカソのほうが、意外と女性的なタイプかもしれません。
例えば、版画で化学製品のボードを削っていく場合、普通は黄色の版や墨の版、ピンクの版など、明るい色から彫っていきます。

ところが、ピカソの版画は、1枚の版木で最後まで彫っていくんです。
最初に黄色の版を刷っておいて、次にブルーを刷ると、重なったところがグリーンになります。
その次に赤版を削っていく。
「版を重ねたらこういう色になる」というシステマチックなことが、進行形でわかる人なんです。
これは非常に天才的なことで、リノリウム版の版画でできるのは、ピカソくらいしかいません。

早川:なるほど。
宇野さんの肩書きは、イラストレーター、挿絵画家、グラフィックデザイナーなどいろいろあります。
ご自身では、どのように認識をされているのですか?


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