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石田衣良さん(小説家)第3回「プロと素人の文章は何が違う?」

物を書く仕事についている人以外でも、自分自身や商品を売り込みたいと思ったとき、魅力的な文章を書けることは大きな武器になる。実際にホームページやブログなどで情報発信している人も多いだろう。だが、「思うように内容が伝わらない」「たくさんの人に読んでもらえない」と悩む人は少なくない。プロとアマチュアの文章にはどんな違いがあるのだろう? 出版業界でトップランナーとして活躍し続ける、直木賞作家の石田衣良さんにうかがった。

ベストセラーを生み出す黄金の法則はあるのか

早川:最近『ベストセラーコード』という本を読んでいます。
どういう作品がベストセラーになるか、過去のデータを分析したアルゴリズムが出てくるんですけど。
結構言い得ているみたいですが、それで本当にベストセラーが出せると思いますか?

衣良:いや、出せないんじゃないですか。
音楽でいうと、パッフェルベルのカノンの循環コードは、ポップスの中で何百回も使われていて、「これがあればヒットする」って言われています。
でも、山下達郎の『クリスマスイブ』はヒットしたけど、別の誰かが取り入れたカノンコードは全然ダメということはザラにあります。
そこをなぞっているだけでは厳しいですね。
それと、正直言ってAIはものすごくバカなので、創作に関してはまだまだですね。

早川:アメリカではAIにネタ出しさせている作家がいるそうですが、それについてはどう思いますか?

衣良:ある程度テーマ設定をして、「警察」「殺人」「裏切り」とか、いくつかキーワードを入れると、粗筋を作ってくれるソフトがあるんですよ。
何百本も出させた中から、「コイツはおもしろそうだな」というプロットを選んで、磨くというやり方です。
正直言って、そういうのは下手くそがやっていることだから。

早川:一番大切な部分は自分でやらないとダメということですね。

プロとアマの文章はどこが違うのか

早川:これもうかがいたかったんですけど、本を出版する前に何度も推敲しますか?

衣良:もちろん見ますけど、何十回も読むとか、何時間も直すようなことはしません。
小説の場合は、そういうことをやると文章が干からびていくんだよね。

早川:村上春樹さんと村上隆さんの、30年ぐらい前の対談を見たんですけど、お二人とも奥さんに作品を見せて、何回も書き直すと言っていました。
一番信頼できる人の意見を聞いて反映させるそうです。
衣良さんはそういうタイプではなさそうですね。

衣良:べつに誰かに読ませようとは思わないので。

早川:書き直しもそんなにありませんか?

衣良:めんどうくさいのでほとんど直しません。
直さないと小説にならないような第1稿を出す人もたくさんいますが、初稿が決定稿になる作家も結構います。
文章感覚や文体に特徴があって、うまい人が基本的に多いんですけど。

早川:衣良さんもデビュー当時からそのスタンスですか?

衣良:そうです。

早川:自分と作品を切り離す、客観的な目があるということだと思います。
そこがきちんとできているか、できてないかって大事ですよね?

衣良:それぞれの人の文体に特徴があるから分かりません。
ぼくは割となめらかにつながる文章を書くじゃないですか。
あるいは『池袋』シリーズみたいに、ものすごく人工的だけど、独特のリズムを持たせています。
リズムで書いている人は基本的に直さないほうがいいんです。

早川:その人独特のリズムって絶対にありますよね。

衣良:そこがプロとアマの差なんですよ。
お役人の文章って全然頭に入らないじゃないですか。
ああいうリズムのないものを読んだ上で、自分なりのリズムをどう作るかを考えたほうがいいですね
例えばクラシックでも、3/4拍子だったり2/4拍子だったり、いろいろな拍子があります。
そういうのを文章で使い分けられるといいんです。
ハードな犯罪小説であれば、ロックのようなカチッと固い文章にする。
恋愛小説は柔らかなピアノ曲にするつもりで作れば、文体のリズムは自然と変わります。
書く上ではそういう楽しみもあるので、好きな人はやればいいんじゃないかな。

早川:衣良さんはそれができるから、いろんなジャンルが書けるんですね。
書くときもスイッチが入って、そういう文体になるんですか。

衣良:作品ごとに、それなりの文体を選んで作っています。
それがまた楽しいんです。

早川:いわゆるエッセイストやライターとして、「このネタでいく」と決めている人の文体は一つでもいいんですか?
幅があったほうがいいとは思うんですけど。


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