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石田衣良さん(小説家)第2回「書く『ネタ』の仕入れ方・使い方」

石田衣良さんといえば、多彩なジャンルの書き手としても有名だ。『池袋ウエストゲートパーク』シリーズのようなエンタメものや、『眠れぬ真珠』のような恋愛小説。殺人犯が主人公の『北斗 ある殺人者の回心』、東京大空襲を書いた最新作『不死鳥少年』など、幅広いテーマを手がけ、老若男女に支持されている。彼は忙しい毎日の中で、どうやってネタを仕入れ、ブラッシュアップしているのだろうか? 作品の制作秘話を聞きながら、その答えを探った。

ネタを仕入れるときに大切なこと

早川:毎回どうやって良いネタを仕入れているんですか?

衣良:ずっとアンテナを張っておけば、何かしら引っかかってきますよ。
それこそ週刊誌や、新聞の5、6行の記事でも短編になるし。
量を仕入れるよりは、「おもしろい」と思う心を持ち続けることのほうが難しいんです。

早川:衣良さんの小説を読むと、「普通にありそうなこと」を魅力的に書けるのがすごいと思います。

衣良:そう。だから何かをおもしろがれる心の状態を作っておくんです。
例えば、この前タクシーの移動中に引きこもりを解決する民間団体のチラシを読みました。
「国は何もしてくれません。でも私たちがやれば97%の確率でお子さんを外に出して、就業するまで支援します」ということが書かれてありました。

「なるほど、こういうのもちゃんとビジネスとして成立するんだ」と思いますよね。
でもお金が取れるとなると、いろんな問題が発生するかもしれません。
ブラックセミナーのように、親と子どもを洗脳して、両方からお金を引っ張ろうとする団体もいるかもしれない。
実は今、そんな設定で、『池袋ウエストゲートパーク』の新作を書いているんですよね。

早川:本当に日常のちょっとしたことがネタになるんですね。

衣良:そうです。
代官山から恵比寿までタクシーで移動する間に、一冊のネタができます。
情報集めに必死になりすぎると、逆に入って来なくなるので、もうちょっと軽い気持ちでいるのがいいと思いますね。

早川:何年も前からこういうお話を聞かせていただいて、わかっているつもりではあるんですけど。
それを日々実践して、書くしかないですか?

衣良:その繰り返しが、仕事の「型」を作るので。
型さえ作っておけば、そこにいろんな素材を投げ込んで小説を書くことができるんです。
『池袋』シリーズみたいに、起承転結の型ができていると、楽は楽ですよね。

早川:今さらですが、池袋シリーズを着想したきっかけは何だったんですか?

衣良:デビュー前は、ホラーや純文学、ファンタジーを書いていて、ミステリーは執筆したことがなかったんです。
でも「オール読物の新人賞がある。小説現代も短編100枚ぐらいまでの作品を募集している。どちらも割とミステリーが強いよな」ということで、初めてミステリーに挑戦したのが『池袋』なんです。
割とよくできた青春小説に、一つ事件が絡んでいるぐらいのつもりで書きました。

『不死鳥少年』の制作秘話

早川:衣良さんの作品は本当にジャンルの幅が広いですよね。
エンターテイメントあり、恋愛あり、北斗のような犯罪ものも、エロスもあり。
最新刊の『不死鳥少年』のような戦争ものもあります。
あれは昔から書こうと思っていたのですか?

衣良;そうなんです。
もう本当に昔のことなんですけど、ぼくが高校生2年生くらいの時、進路の話をするために、母親がぼくの部屋に来ました。
割とあったかい休日の午後です。
母親が「あの東京大空襲に夜は本当にすごかった」っていきなり話し始めたんです。
当時、母は都立小松川高校(現在)の2年生で、炎の中を逃げまわって生きのびました。
母が戦争で死んだ人を見たのはその日が初めてだったそうです。
最初は死者を見るたびに「すみません」って言って通り過ぎていたんですけど、その夜のうちに100体以上の死体を見ることになるので。
そのうち手を合わせるどころか、道に落ちている丸太ん棒みたいにピョンピョン飛びこえて逃げたっていう話を聞きました。
「いつか、それはきちんと書いておいてもいいな」という気持ちがあったんですね。

早川:それをなぜ去年書くことになったんですか?


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