コシノジュンコさん(デザイナー)第3回「悩みをひっぱらないコツ」
コシノジュンコさんの姉・コシノヒロコさん、妹コシノミチコさんもいわずとしれた有名ファッションデザイナー。才気あふれる「コシノ3姉妹」を育て上げ、自らも同じ職業で活躍した母の小篠綾子さんの生涯は、テレビドラマ『カーネーション』でも描かれ、反響を呼んだ。今回はそんな母親との思い出からご自身の悩みとの向き合い方にいたるまでうかがった。
料亭のような、コシノ家の食卓
早川:『カーネーション』を拝見して、お母さまのエピソードもいろいろ見ました。
やっぱり子どもって親の影響を強烈に受けますよね。
コシノ:うちの親は強烈でしたね。
とにかく仕事ばっかりしているけど、恋も遊びもするから1年中忙しいんです。
そういう中でおいしいものチャカチャカって上手に作るの。それは本当に影響されました。
適当に食べるんじゃなくて、なにかちょっと手を加えておいしくするんですね。
例えば、小学校の時から、炊きたてのご飯で鯛茶漬けを食べていました。
早川:ぜいたくですね。
コシノ:「炊きたての熱々の湯気を食べるのは、最高のぜいたくよ」っていうのを教えてくれました。
その上に鯛や白身のお刺し身を乗せて、ワサビと玉露でお茶漬けにするんです。
3姉妹がずらっと並んで、ご飯入れた途端にお刺し身を載せる役。上にワサビ載せる役。お茶をかける役。ノリをパパッと振る役に分かれて働くの。それでバッてふたする。
全部数秒でやらないとダメなの。
「まだ開けちゃダメ、ダメ、ダメ」って言って。
「はい、じゃあOK」という声でパーッと競争みたいに食べるんだけど。
小学生のころから、そんな面白い食べ方をしていました。
お刺し身は近所のマーケットで買ってくるだけですが、食べ方が料亭みたいでした。
早川:あの『カーネーション』は、ノンフィクション率何パーセントぐらいなんですか?
コシノ:事実はもっとすごいと思います。
だって、私ディレクターに「こういうことがあったんだけど、それ撮れないの?」と聞いたら、「いい話なんだけど、そこにロケに行くと経費がかかるから、できなかったんです」って言われたの。
どんなエピソードかと言ったら、私が幼稚園ぐらいのときのことです。
家の近くの海岸に手つないで行ったのですが、母は始終ぼーっとしているんですね。
そのうち暗くなってきて、「お母ちゃん、もう帰ろう」って言ったら、はっとわれに返って。穴を掘って、「アホー!」って叫ぶんです。
それを埋めて、「ほな、帰ろうか」って言うんです。
多分うちの父が浮気でもしたんじゃないですか。
事実はわからないけど、その場面は忘れられません。
早川:そのシーン、ドラマでも欲しかったですね。
コシノ:いいお話だったんですけどね。
でも、『カーネーション』が復活して、2018年の4月から再放送するんですって。
今『カーネーション』はタジキスタン、ウズベキスタンなど、行くところ全部で放送しているから、現地で「待っていました」って言って歓迎してくれるの。
ベネズエラなんか、もう大変よ。
今はキューバでもやっているんです。
早川:ジュンコさんの切り開いたキューバですね。
コシノ: もうそろそろ放送が終わるんですけど、視聴率は45パーセントなんですって。
早川:ほぼ半数じゃないですか。
コシノ:朝晩2回放送しているので、朝しか見ない人、夜しか見ない人がいるって考えたら、ほぼ全員見ているってことでしょう。
小さな島だけど、それにしても45パーセントっていうのはすごいじゃないですか。
私たちキューバで3回ショーをやっているから、「あのジュンコがドラマになった」っていうことで大変なんです。
早川:『カーネーション』のドラマで、ジュンコ役の方は、すぐに「ジュンコさんだな」ってわかりますよね。
コシノ:あの子が純粋に岸和田の子なんです。
「私の役、どんな子がやるの?」って聞いたら、ディレクターが「女子プロですよ」って言うんです。
「最近のゴルフの女子プロって、かわいい子がいるのね」と言ったら、「いえ。女子プロレラーです」って答えるんです。その人本当に女子プロレスラーだったの。
すごくさっぱりしていて、かっこよくて、気性が良くて、仲よしですよ。
子どもにはすべてを見せる
早川:ジュンコさんは当然お母さまの影響を受けていると思うんですけど、そこからさらに転じて、息子さんの話に行きたいと思います。
ジュンコさん、ずばり、母親として息子さんをうまく育てられたと思いますか?
コシノ:私がパリコレに出始めたのは1978年で、80年に子どもができたときは、パリコレの真っ最中でした。
やめるっていう選択肢はあり得なくて、そんなことよりも「おなかがまん丸くなるなんて、不思議だな」って思ったんです。
普通の親と違うのはそこかもしれない。
「こんなきれいな、スイカみたいなまん丸は一体何なの?」「水の中に子どもが生きているなんて、これはもう人間じゃなくて宇宙の一員だ」って思っちゃったの。
もう丸に夢中になって、バルーンみたいなフォルムの服ばかり作りました。
こんなにおなかが大きくなっても、ショーは休んでいないんですよ。
妊娠6カ月でパリコレ。8カ月で東京コレクションに出ました。
ちょうど夏休み中に産んでいるから、みんないつ産まれたのか知らないの。
早川:オフィシャル的には間が開いてないってことですね。
コシノ:全然お休みしてないです。
帝王切開だから2週間は病院にいたけどね。
それで丸いものに夢中になっていたら、「神様が作ったものはみんな丸い形をしている」って気がついたんです。
じゃあ人間が作ったのは何だろうと考えたら、